商品の魅力をどのように伝えるのか?は、マーケティング上のコミュニケーションにおいて、日々頭を悩ませるテーマだと思います。その中で、「商品の欠点もあわせて伝えるほうがむしろ買ってもらえるのでは?」という感覚が私にはあります。
そこで、この記事では商品の欠点を伝えることの効用について考えてみます。
「商品のどんな魅力を伝えるか」だけでなく、「説明が信用できるか」も重要
言ってしまえば当たり前ですが、ある商品が買われるには「その商品や売り手が信用できるか」がとても重要です。
まずは、私たち生活者がどのように信用ある情報を集めているかを考えてみましょう。
みなさんは多かれ少なかれ、自分がよく知らないものについては他の人の意見を聞くのではないでしょうか。私の場合、何かの商品を検討するときは、よく知らないカテゴリであればあるほど、まとめサイトやランキング、レビューなどを見ます。
これは、商品の売り手よりも、第三者でその商品カテゴリに詳しい人の情報のほうが信用できるからでしょう。第三者が「その商品が売れても利益が入らないのにおすすめしている」のであれば、本当に良いものだからおすすめしていると思えますね。
自分がよく知っている商品カテゴリについては、自分の考えが信用できるので、商品のスペックさえわかれば良し悪しを判断できます。
以上のように、私たちは第三者や自分自身を信用する傾向にあります。では、商品の売り手は信用されないのでしょうか?
それは、売り手のマーケティング次第でしょう。
第三者がフラットな視点で商品の魅力も欠点も伝えてるのに、売り手が魅力だけを伝えていたら嘘くさくないでしょうか?
欠点を大げさに伝える必要はないかもしれませんが、売り手はある程度正直に情報を伝えるほうが誠実にみえて、生活者から信用してもらえそうです。
生活者は、商品の期待はずれリスクを最小化したい
私たち生活者は商品の欠点を正直に伝える売り手を信用しそうだ、ということを上述しました。続いて、別の観点で、生活者が商品の欠点を知ろうとする原理を考えます。
私たちはよく知らないカテゴリの商品を買おうとするとき、商品に期待する一方で、「期待はずれだったらどうしよう」という不安を抱きます。
当然、期待はずれは避けたいですよね。そこで、生活者は「もし期待はずれだった場合」をなるべく具体的にイメージすることで、期待はずれの下限はどこか?を探ることがあります。
期待はずれの下限がわかれば、それが自分の許容範囲内であれば購入する、許容範囲外であれば購入しない、と判断できるからです。
Youtubeなどで商品の辛口レビューを見るのは、期待はずれの下限を探る行動の典型例といえます。辛口レビュアーは商品の欠点も余さず伝えてくれるので、生活者はその欠点が自分にとってクリティカルな問題でなければ、安心して購入できます。
生活者が商品の欠点をあえて見に行くことがある以上、売り手は生活者の情報探索ニーズにあわせて商品の欠点も伝えるべきではないでしょうか。ネガティブな情報が、むしろ購入の決め手になり得るわけです。
権威性と誠実さを組み合わせる
社会心理学者ロバート・B・チャルディーニが著した『影響力の武器 なぜ、人は動かされるのか』は説得や影響力のメカニズムを解き明かした名著であり、マーケティングや営業、交渉など幅広い分野で応用されています。
この本にも、あえて欠点を伝えることで顧客の購入を後押しできることが言及されています。
ロバート・B・チャルディーニ. 影響力の武器[第三版] なぜ、人は動かされるのか (p.404). 株式会社 誠信書房. Kindle 版.
「彼ら」はある分野の専門家のことです。専門家は権威性を持っており、権威者の意見は大きな影響力を発揮します。例えば、大学教授や医師をイメージするとわかりやすいでしょう。
生活者は権威者の意見を信じやすい一方で、その権威者がどれほど誠実なのかを気にします。権威者が専門的な意見を言っても生活者にはその真偽がわからず、「その人が嘘をつかなさそうか」で判断するしかないためです。
そこで、「彼らは自分たちの利益に少し反したことを言う」ことで、自身の正直さを証明します。大学教授であれば、専門外のことは知ったかぶりせず「わからない」と言う、「この点は検証が必要ですが」といった前置きをする、などです。
商品の売り手も、その商品カテゴリの専門家という意味での権威性を持っています。影響力の武器では、あるレストランのウェイターが信頼を勝ち取る事例が紹介されています。
そのウェイターは団体客が来ると、はじめの注文を受けたときに額にしわを寄せ、「その料理は今夜はいつもほどおすすめできません。代わりに○○や△△をおすすめします」と伝えます。
これによって、ウェイターは「豊富な知識と誠実さを兼ね備えた誠実な人」と客からの信頼を得ました。その後、客はウェイターがすすめたものを喜んで注文し、高めのチップを払い、満足して帰るのです。
以上、正直に欠点を伝えることで、売り手としての信頼を高め、結果的に顧客の購買を後押しできる、という話でした。近江商人の三方よしにも通じるかもしれませんね。お疲れ様でした。
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