アイデアのつくり方(書評) – webマーケターの考えごと

アイデアのつくり方(書評)

私は前職の広告制作会社で、新卒入社から数年はコピーライティングをしていました。そして、たまに社内コンペで広告企画(たとえばポスターの絵コンテとコピー)を出していました。社内コンペでは諸先輩方と争って、自分の企画が選ばれればそれがクライアントに提案されるのですが、そうそう勝てるはずもなく全戦全敗。「自分ってセンスないし、どうせ若手の企画は選ばないんやろ…」と腐っていた時期がありました。『アイデアのつくり方』(ジェームス・W・ヤング著)は、あの頃の自分にぜひ読んでもらいたい本です。

アイデアは「つくる」ことができる

この本を手に取って驚くのが、本編が62ページという薄さです。しかしながら、その中に「アイデアをどうやって手に入れるか」についての解説が簡潔かつ明瞭に示されています。アイデアとは何か突飛な考えではなく、「既存の要素の組み合わせ以外の何ものでもない」と、著者のヤング氏は言い切ります。組み合わせとは物事同士の関連性を見つけ出すことを指します。

そして、物事同士の関連性を見つけ出す=アイデアを生み出すには、それこそベルトコンベアの流れ作業のように、きちんとした手順を踏むことで誰もが再現できるというのです。これは、とても勇気をもらえることではないでしょうか。

本書で示されている手順は以下の5つです。

  1. 資料集め:目の前の課題に関する情報を可能な限り集める
  2. 資料の組み合わせ:集めた情報を組み合わせることで、課題を解決できないかを探る
  3. 組み合わせの限界:さまざまな組み合わせを試すものの、これだ!というものは見つからない
  4. アイデアの誕生:課題から離れて何か別のことをしているとき、リラックスしているときに突然アイデアを閃く
  5. アイデアの検証:本当に有用なアイデアなのかを冷静に確認する

資料集めと組み合わせ、そして限界を迎える

言われてみれば当たり前なのですが、アイデアを生むには、もととなる知識が必要です。ただ、多くの人がそのための資料集めを十分にしないまま、机に向かって俯きアイデアを考えているとヤング氏は指摘しています。資料は、特殊資料と一般的資料に分けられます。特殊資料とは課題(例えば、仕事で何かを提案する、家族や友人と楽しく過ごすプランを考えるなど)に関する知識・情報で、必要に応じて集めます。一般的資料とはそれ以外のあらゆる知識・情報で、学術的な知識から雑学や趣味的な知識までさまざまであり、日常的にアンテナを張って収集するものです。

そして、収集した資料を組み合わせます。組み合わせるのは特殊知識同士ではなく、特殊知識と一般的知識を組み合わせます。私はここにアイデアのつくり方の真髄があると思います。特殊知識は誰でも調べれば手に入るのですが、一般的知識はその人の経歴や生き方が反映されるので、それらを組み合わせることで他の人から「どうやって思いついたの!?」「天才やん!」と思われるアイデアが生まれるのです。

では、知識を組み合わせるとすぐアイデアが生まれるのかというと、そうはうまくいきません。アイデアの種と呼べるものは出てくるのですが、納得はできないでしょう。課題について四六時中考えていると、次第に頭がこんがらがってきて、これ以上は考えられないと絶望します。…ただ、それで手順はあっています笑。絶望するくらいにしっかりと考えるのがポイントで、ここまでくれば課題について考えることをやめてしまいましょう。

アイデアの誕生と、生まれたアイデアの検証

課題から離れて他のことをしていると、ふとした瞬間にアイデアが訪れてきます。ヤング氏は「諸君がその到来を最も期待していない時」と書いており、リラックスしているときが多いのかもしれません。映画などでアイデアが閃く描写がありますが、それはこの4つ目の手順を切り取ったものといえます。映画の登場人物がその場でパッと思いついたように見える場合でも、実はすでに3つの手順が終えられているのであって、その真似をしてアイデアをひねり出そうとしても出てこないのは、ある種当然のことなのです。

最後に、訪れたアイデアが現実に適用できるように検証し、手を加えていくことも必要になります。ヤング氏いわく「生まれたばかりの可愛いアイデア(中略)この子供が、諸君が当初産み落とした時に思っていたようなすばらしい子供ではまるでないということに気づくのがつねである」。そのため、せっかくのアイデアを広く公開したい気持ちをいったんおさえて、理解ある人に壁打ちしてもらうなどで磨き上げ、ケチがつかないようにしてから提案するようにしましょう。

手順がわかっても、大変なことには変わりない

ここまで、アイデアをつくる手順をみてきました。手順だけをみると「資料集め」や「組み合わせ」など、まあそうですよねと思えるのですが、これらの手順をどこまで深く実行するのかが問題であり、実際にやろうと思うとかなり大変です。それでも、私は「手順がわかっただけでもありがたい」と思えました。社内コンペに取り組んでいた頃の自分がこの本を読んでいれば、先輩方には特殊知識(広告についての知識・経験、良いクリエイティブの事例など)では勝てないので、一般的知識(趣味や自分が好きなこと)で他の人には出せない案を出そうとしていたと思います。また、必死になって考え抜くことは無駄じゃないんだ、とも思えたはずです。

ちなみに、ある著名なクリエイターの方から「クリエイティブにおけるセンスとは引き出しの数であって、見聞き感じたものの総量で決まる」という話を伺ったことがあり、かなり前の話ですが印象的で、今でも覚えています。「センス」というものも「アイデア」と同様に才能に紐づけられがちな概念ですが、その人の知識や経験が形となって見えないから「センスあるね」の一言に片付けられてしまうのでしょう。『アイデアのつくり方』と通じるところがある話だと思いました。

 

以上、アイデアは誰にでも生み出せる(でも大変だよ)という話でした。お疲れ様でした。


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