「ブランディング」というと、どこかつかみどころのない話のように思える方もいらっしゃるのではないでしょうか?
私もその一人でしたが、『ブランディング22の法則』(アル・ライズ、ローラ・ライズ共著)を読んだことで、ブランディングがどういったものなのか、輪郭をつかめたと感じています。そこで今回は、この本を紹介できればと思います。
マーケティング実務家の経験知が紹介されている
『ブランディング22の法則』は1990年代に出版された本で、アメリカのマーケティング戦略家として高名なアル・ライズ氏と、彼の娘でありマーケティング戦略会社の共同経営者であるローラ・ライズ氏によって著されました。
それを差し引いても、この本で紹介されている考え方は、現代のマーケティングにとっても有益だと思われます。人間がモノを購入するときの心理に注目されており、時代や環境の変化によらない本質に迫っているように感じられるからです。
本書ではブランディングの「法則」が22個紹介されますが、主張は以下の3つにまとめられます。
- ブランドはむやみに拡げず、ひとつに絞り込んで集中せよ
- ブランドは企業が作るのではなく、人々の頭の中で作られる
- 商品は品質が良ければ売れるわけではなく、ブランドの信用力が重要となる
それでは、主張をひとつずつ見ていきましょう。
ブランドはむやみに拡げず、ひとつに絞り込んで集中せよ
現代のマーケティングでは、セグメントごとに個別のコミュニケーションがある程度できますので、彼が主張するほどにはブランドを集中させなくてよいかもしれません。
しかし、ブランドがカバーする範囲を絞り込む考え方は、知っておくとよさそうです。あるブランドが選ばれるのは、その特異性が顧客に認知されてこそ、という主旨です。
- 炭酸ジュースという代わりに、あなたは「コーラ」を注文する。
- 消臭剤という代わりに、あなたは「ファブリーズ」を注文する。
- 安全な車という代わりに、あなたは「ボルボ」を注文する。
このように、あるカテゴリーを代表するブランドになること、あるいはブランドによって新たなカテゴリをつくることで、顧客はブランドが提供する価値を信じて購入するということです。
若干簡略化されすぎている気もしますが、カテゴリーに対してブランドを紐づけるというのは、現代でも自然な考え方※でしょう。
※カテゴリー・エントリー・ポイント(CEP)という概念に、かなり近しいです。
そして、成功したブランドであってもむやみに商品の種類を増やしたり、サブブランドを設けたりすると衰退につながると、著者は警鐘を鳴らしています。ブランドを拡大する際には全く別の注意点が示されるでもなく、「とにかく絞り込め」というのが著者の主張です。
私はここには賛成できませんが、少なくとも、ブランドが長年かけて築いてきた「○○といえば△△」というカテゴリーと商品の結びつきを毀損しないようにする、という視点は重要だと思います。
関連する法則
第1章:拡張、第2章:収縮、第8章:カテゴリー、第10章:ライン延長、第11章:協調、第14章:サブブランド、第15章:兄弟、第20章:変更、第21章:寿命、第22章:特異性
ブランドは企業が作るのではなく、人々の頭の中で作られる
この主張はマーケティングにおいて重要な事実であり、議論の余地はないでしょう。
企業が顧客に自社ブランドの存在を伝える手段として、ブランド名やロゴマークがあります。
それらは「企業がどうしたいか」ではなく、「顧客にどのように受け取られるか」によって決められるべきだ、ということです。
例えば、顧客が企業名をブランドと認知するのなら、企業名をブランド名とすればよく、競合が赤色のイメージを持っているのなら自社は青色(あるいは他の色)にする、といったことです。
また、著者は広告とパブリシティについても主張しています。
ブランドの価値が顧客に知れ渡る=ブランドが形成されるのは、パブリシティ(メディアや専門家、SNSなど第三者による言及)によってであり、広告はすでに形成されたブランドを維持するのに向いている、ということです。
著者は「企業の言うことを顧客は信じない」と主張しています。
私はここまで単純化しなくてよいと思いますが、広告とパブリシティの大まかな役割については著者の言う通りだと思います。
関連する法則
第3章:パブリシティ、第4章:広告、第5章:言葉、第9章:名前、第12章:ジェネリック、第13章:企業、第16章:形状、第17章:色調
商品は品質が良ければ売れるわけではなく、ブランドの信用力が重要となる
3つ目は、良い商品が必ずしも売れるわけではないと言う話です。これは、マーケターとして心に留めておきたいことです。
著者は、以下のような主張をしています。
- ブランドがカテゴリの代表的な存在となることで、顧客はそのブランドを信用する
- なぜなら、顧客は企業が発信する商品の価値をそのまま信用するわけではないから(価値を判断するに足る知識がないため)
- そして、顧客はカテゴリ内でのブランドの比較によって、優位なブランドを信用するから
例えば、ひとくちにビールというカテゴリでも「ビール」「地ビール」「高価格ビール」「ドイツ製ビール」「日本製ビール」などと多くのサブカテゴリがあります。
それぞれのサブカテゴリを代表すれば、「高価格ビールといえば○○」といった信用を得られるとのことです。
この話はとても納得できるのではないでしょうか。
関連する法則
第6章:信用力、第7章:品質、第18章:国境、第19章:一貫性
以上、『ブランディング22の法則』から学んだブランディングの輪郭について、3つの主張をまとめました。お疲れ様でした。
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