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情報学を応用して、webサイトのユーザー行動をモデル化する(後編)

前編では、情報学・図書館学の領域で提示されている「情報探索プロセスモデル」や「情報探索行動モデル」を紹介しました。

情報学を応用して、webサイトのユーザー行動をモデル化する(前編)

こういった理論的背景をもとに、表面的なテクニックに陥りがちなwebマーケティングを体系的に理解できると、施策の精度や再現性が高まりそうです。以下の記事では、ユーザー行動のモデル化について別のアプローチを取っていますので、よければ一緒にご覧ください。

ユーザーの心の動きを「肯定度」で考える

後編では、ユーザー行動をモデル化することが、webマーケティングにおいてなぜ重要なのか?について深掘りします。

ユーザーは、サイト制作者の意図通りには動かない

webサイトやwebページを作る側(企業など)は、ユーザーにある程度読まれる前提で作っていますし、労力をかけて作ったコンテンツほど「多くの人に見てほしい」「ちゃんと読んでほしい」という思いが入り込むのは自然なことです。

その一方で、ユーザーはサイト制作者が思っているほどには各コンテンツをしっかり見てはいません。商品・サービスの購入を検討する、あるいは困りごとを解決する、といった目的に応じて効率的にwebサイトを回遊するためです。

企業としては、自分たちの出したい情報を発信するのも大切ではあるのですが、そもそも見られて いないならば商品・サービスの購入に寄与しないので、事業にとっては意味はありません。はじめから「リッチなコンテンツをつくろう!」とするよりも、ユーザーがよく見ているとわかっているところをより充実させていくほうがよいと思います。

そこで、まずはユーザーの実際の動きを追い、ファクトとして「どのページがどのくらい見られて、商品・サービスの購入に役立っているか?」をおさえることが重要です。

💡そして、サイト制作者の意図とユーザーの実際の動きとのギャップが大きいところを中心に、導線の改善や適切なコンテンツの制作をしていきましょう。

さまざまな工夫をしてユーザー行動の実態を探り続けるのが、webマーケターの最も重要な仕事です。

ユーザーは、効率的に情報収集をしている

以前、私が運用担当しているwebサイトのCV経路(=CV前にどのページを閲覧していたか)を分析したところ、「ユーザーは、マーケターや事業者側が思うよりも、真剣にwebサイトを見ていないのではないか」と思える結果となりました。

具体的には、以下のことがわかりました。webサイトで取り扱っているのは高額(15~300万円)の社会人向け教育サービスで、CVはサービスの無料体験申込みを指します。分析したCVユーザーのサンプル数は6000強です。

  • TOPや無料体験申込みに直接関わるページを除いて、最もよく見られているページ(ページA)でも25%程度しか見られていなかった。つまり、1500ユーザーしかCV前にページAを見ていない。
  • サイト全体のページ数は100以上あるものの、よく見られているページはかなり限られており、CV経路として主要なページは6ページに絞りこめた

この分析については、以下の記事で詳しく紹介しています。

webサイトはそこまで真剣に見られていない

真剣にwebサイトを見ていないというのは、それだけ効率的に情報収集しているということです。時代の流れからしても、これはとても自然なことだと感じます。

💡こういったファクトを把握することで、「自身の関心に応じて、効率的に情報収集をするユーザー像」が浮かび上がってきました。

ユーザーの情報ニーズに合わせて、webサイトを設計する

上記のユーザー像に対して、webマーケターが導線設計やコンテンツ整備をする際には、以下の視点が重要となります。これが、ユーザー行動をモデル化することにつながります。

💡どのユーザー群に、どのタイミングで、どんな情報を提供するか?

どのユーザー群に

商品・サービスの購入検討にあたってユーザーが疑問に思うことは、ある程度共通しているはずです。例えば、教育サービスであれば以下のような疑問が主にあるでしょう。

  • 学びの質はどの程度なのか?
  • 価格はどの程度で、自分にも出せる範囲なのか?
  • 自分のレベルと合っているか?(高すぎても、低すぎてもよくない)
  • サービスの具体的な使い方は?(場所、頻度、オンラインかどうか、付帯サービスなど)

こういった疑問を解決するために、よく見られているページがあるはずです。それらを主要ページと定義して、主要ページを閲覧しているユーザー群に対してwebサイト改善を行うとよいでしょう。


どのタイミングで

ここが、ユーザー行動のモデル化と密接に関係しています。ユーザーは自身の関心(疑問)に沿って効率的に情報収集しているため、関心(疑問)に沿わない情報は、たとえ有用であっても見逃していたり、重要に思わないことがあります。

そこで、各ページやコンテンツを「どんな関心(疑問)を持ったユーザーが主に見ているのか?」を考えて制作・改善することがとても重要です。

webサイトでの情報収集に共通するユーザーの思考の流れは、前回の記事で紹介した「情報探索プロセスモデル」や「情報探索行動モデル」で説明しています。一般的にwebサイトユーザーは、以下のような思考の流れをたどります。

  • はじめは、商品・サービスの購入検討にあたっての判断材料が何か漠然としている
  • 情報を得ていくと、購入検討の判断軸としてさまざまな要素があることに気づき、悩む。考えを深めると、自分にとって重要なものが何かがわかってくる
  • 重要と思った要素についての情報を探索し、最終的に購入するかどうかを意思決定する

こういったモデルをもとにして、ユーザーが検討段階に応じて適切に情報を得られるように、導線設計やコンテンツ制作を行っていきましょう。(詳しくは、前回の記事をご覧ください)


どんな情報を提供するか?

これは完全に私見ですが、サイト制作者の意図とユーザーの実際の動きがかみ合っていないのは、ある種当然のことだと思います。そのため、意図と実際とのギャップが大きいところは「改善のチャンス」だととらえて、適切だと思われる情報に差し替えてみたり、導線設計を見直してみたりすればよいのです。

はじめから100点を取れるわけはないので、小さなABテストを繰り返してCVRを地道にあげていくしかないのが実際のところです。

とはいえ、ABテストをいくらやっても結果がよくなければしんどいですので、施策の精度を上げるために「どのユーザー群に、どのタイミングで」を意識して打率を上げていきましょう。


 

以上、サイト制作者の意図とユーザーの実際の動きは、ずれていることがほとんどであるため、ユーザー行動のモデル化を用いながら適切なサイト改善を続けていきましょう、という話でした。お疲れ様でした。


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