私の前職は広告業界の制作会社で、企業から委託されてwebサイトの制作を行っていました。その中で、既存のwebサイトをリニューアルしたいという案件も多く、要件のひとつに「webサイトへの流入数増加」が挙げられることもしばしばありました。しかし、webサイトのリニューアルで流入数を増やすのはかなり難しいので、その理由についてお話ししたいと思います。
webサイトリニューアルの目的は主に2つ
リニューアルにあたってクライアントから受ける要望は、以下の2つに集約できると感じています。
- デザインの刷新による印象形成
- コンバージョン(CV)数の増加
デザインの刷新は想像に難くないかと思います。
CV数の増加とは、そのサイトを通じてユーザーにしてもらいたいアクション(CV)の数です。例えば、公式サイトやサービスサイトなら問い合わせ数や申込数、採用サイトなら応募数といったことです。CV数は以下の式で表せますので、増加させるにはCVRを改善するか、流入数を増やすか、大きく2つの手段に分けられます。
CV数 = サイトへの流入数 × コンバージョン率(CVR)
あれ?流入数が出てきましたね。であれば、流入数を増加させればCV数も増えるはずです。それはその通りですが、流入数増加の手段として、webサイトリニューアルは適切ではないのです。これについては、流入数増加とCVR改善の手段を具体的に考えてみると明らかです。以下のようにさまざまな手段があります。
- CVR改善
- コンテンツ開発※
- 基本的な情報の提供
- より詳細・具体的な情報の提供
- ユーザーの声や活用事例の紹介
- ユーザビリティ向上(≒導線改善)
- 不要な要素を削除したページ設計
- 問い合わせや申込みへのわかりやすい導線設計
- 読み込み速度改善
- モバイル対応
- コンテンツ開発※
- 流入数増加
- 外部メディアに取り上げてもらい、指名検索数を増加させる
- SEO対策により、指名検索以外での表示順位を上げる
- SNSで新規ユーザーを獲得し、サイトに案内する
- 主催イベントの参加者にwebサイトを案内する
※新しいページを作るとその分流入数が増えることはありますが、それは「SEO対策により、指名検索以外での表示順位を上げる」に含めています。
サイト内への働きかけでは、流入数は増えない
以上のように手段を挙げてみると、流入数増加の手段はサイト外への働きかけしかありません。対照的に、CVR改善の手段はサイト内への働きかけです(厳密にはサイト外への働きかけもありますが、ここでは割愛します)。webサイトリニューアルでは主にサイト内に働きかけるため、流入数は増えません。流入とは「あるユーザーがサイト外からサイト内に入ってくること」であり、流入させたいユーザーはサイト外にいるわけです。以上より、webサイトリニューアルとは「サイト内への働きかけでCVR向上を図り、多くの場合はデザインも刷新する」活動だといえます。
裏を返せば、PRやSNS活用、イベント開催といったマーケティング施策にあわせてwebサイトを改修するのであれば、流入数は増えます。この場合は「webサイトをリニューアルして流入を増やすんだ!」ということではなく、顧客獲得のためにさまざまな施策を講じた結果、webサイトが通り道なので流入数が当然増えた、ということになります。
むしろ、リニューアルによって流入数は減少する
ここで、webサイトリニューアルに携わったことのある方からすれば、「SEO対策はリニューアルの一環では?」と思われるかもしれません。確かに、リニューアルにあたってSEOを意識することは大切です。ただし、webサイトリニューアルにおけるSEOは、基本的にはリニューアルによって起こる流入数の減少をなるべく防ぐために行うものです。さらっと書きましたが、webサイトをリニューアルすると、大抵は流入数が減ります。
SEO(≒各ページの表示順位)において重要な要素は、大まかにはwebサイト自体の評価と、各ページで扱う内容が検索ワードとどれだけ関連しているかの2つです。「webサイト自体の評価」や「検索ワードとどれだけ関連しているか」の評価は、Googleなどの検索エンジンによって行われるものです。webサイトリニューアルによってこれら2つの評価が下がることが多く、流入数が減ります。以下で、なぜ評価が下がるのかを説明します。
前者の「webサイト自体の評価」とは、検索での表示順位が高いページが何ページあるかということです(とてもざっくりした説明ですが)。webサイトリニューアルでは、既存の複数ページを統合して1ページにまとめ直す、あるいは不要と思われるページを削除することをよく行います。そうすると、表示順位の高いページの数が減ってサイト全体の評価は下がります。サイト全体の評価が下がると、それに応じて各ページの表示順位も下がり、流入数が下がります。
後者については、例えば「100ページのwebサイトで、1ページあたり2つの検索ワードと関連が強く、それらのワードで検索すると表示順位が高くなっている」とすると、主に200ワードからの流入があるといえます。リニューアルによってページが統廃合されて、例えば100ページのwebサイトを80ページにしたとすると、削除された20ページと関連の強い40ワードからの流入が減少します。ページを統合する場合、例えば2ページを合わせると4ワードをカバーできるのでは?と思われるかもしれませんが、それは実際問題難しいです。webサイトリニューアルにあたってクライアントは「煩雑な情報をすっきりさせたい」と考えるもので、ページを統合すると必ずと言っていいほど情報量は削られ、その結果として関連する検索ワードは減少していきます。
以上のように、webサイトリニューアルでは基本的に流入数は減るので、そうならないようにSEO対策を講じることがあります。ただし、これはあくまで「マイナスをゼロに近づける」ためのSEOであって、流入数増加にはつながりません。webサイトリニューアルによって流入が増加したという事例があるとすれば、リニューアルの際に新規コンテンツを作っており、その分の流入が増えたといったことしかないかなと思います。
説明が長くなってしまいましたが、この記事でお伝えしたかったのは、「webサイトをリニューアルするならば流入数は減少する前提で、CV数が増えればよしとしましょう」ということです。お疲れ様でした。
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